画業25周年を迎える野又穫。「空想建築」それは、どこか遠くに存在するような、記憶のデジャヴ。しかし、それは決して存在しない、空想上の建築物である。現実と非現実、過去でもなく未来でもない。天に届くような伸びやかさ。孤高ともいうべき作品の存在感。デビュー当時の代表作から、完成したばかりの最新作を含む、約120点を収録した決定版。頭上の無限、至上の明るさ。……見る人が感じとるのはそのような思いなのだ。意味や解釈、説明を必要としないで伝わってくるものが、アーティストの世界を見る人に手渡す。野又穫の場合、それはまさにもうひとつの世界の誕生としてある。(クリエイティブ・ディレクター 小池一子「もうひとつの世界」より)野又さんが描きたいのは、幻想性ではないのではないか。どういえばいいか、野又さんの中には、未知の未来というコマッタモノがあって、それは言葉でも絵でもちゃんとはとらえられないから、仕方なく、せめてその予兆をなんとかキャッチしようとキャンバスに向かっているのではないか。野又さんの絵は、幻想的ではなく、予兆的である。野又さんに先行する予兆の画家として、イヴ・タンギーしか私は知らない。(建築家 藤森照信「予兆の画家――野又穫」より)
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