貧しい製鉄工の家に生まれたジャック・ドリオ(1898~1945)は、類まれなる弁舌とカリスマ性でフランス共産党の若き指導者となり、「赤い都市」サン・ドニの市長としても絶大なる人気を誇る。しかし、その信念からコミンテルンに反逆。除名されたのち、共産主義に対する根深い憎悪をたぎらせながら、ファシスト政党「フランス人民党」を結成する。(上巻)。フランスのドイツへの宣戦布告、休戦協定を経て、ドリオは、反ボルシェヴィズム・フランス義勇軍団の創設者のひとりとしてドイツ国防軍の制服を着て東部戦線で戦うなど、熱烈なナチス協力者へと変じる。その後ドイツの敗色が濃厚になるなか、ドイツ・マイナウ湖に亡命したドリオは、ヒトラーとも会見。自身の政権を画策するが、1945年、移動中に飛行機からの機銃掃射を受け謎の死を遂げる。(下巻)もっとも著名な政治的転向者のひとりジャック・ドリオの謎に包まれた生涯を、政治、経済、社会、思想史などさまざまな背景から丹念にたどり、あらゆる思想がひしめいた激動の20世紀史をも照射する傑作評伝。【本書「はしがき」より】左右の政治勢力の激しい対立が国を二分した1930年代のフランスで、左翼から極右に、共産主義や社会主義からファシズムに移行し、ヴィシー政権下では対独協力に積極的に加担した政治家や知識人が少なからずいたが、それらのなかでも、ジャック・ドリオはもっとも有名で、もっとも代表的な人物である。また、さまざまな困難が多くの人々に特異な生き方を強いたこの時代、とりわけドリオはもっとも驚くべき生涯を生きた人物であった。
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