【期間限定掲載ショートストーリー】 ■■酒は飲んでも飲まれるな by ティフィン■■ 喉が焼けるような乾きを感じて吾輩は体を起こす。 「…………水」 周囲は薄暗く、部屋の中は心地よい静けさに満たされている。 ベッドから足を下ろし、吾輩はやけに胸元が涼しいことに気付く。衣服が乱れている。これでは胸が見えてしまうではないか、と吾輩は衣服を正し、立ち上がった。 「水は厨房か」 部屋を出て、階段を下りると微かな酒の匂いが鼻を擽るが、どうにも心が惹かれない。 ……はて? 吾輩が酒に魅力を感じぬとは。 軽い鈍痛を感じて吾輩はこめかみを指で揉みほぐして厨房にたどり着く。酔い潰れている傭兵をまたぎ、吾輩は樽に入った水をグラスに掬う。そのまま乾きを満たすように二度、飲み干した。口から零れた滴を舌で舐め取り、吾輩は頬をぺちぺちと叩く。 ようやく意識がしっかりしてきた。そうだ。吾輩は今、エドとリーシャの町に来ていた。そこであの赤毛の傭兵と出会ったのだ。 華奢な外見だったが、腕が立つのはすぐ分かった。それにあの強い瞳。今では傭兵の祖と呼ばれるあいつを思い出す力強い意思。 吾輩は階段を上り、懐かしいかの猛者との戦いを思い出して一人で笑った。部屋に入り、再びベッドに体を預ける。水を飲んで体が冷えたのか。微かな寒気を感じて、布を体に抱く。 そして、吾輩は瞳を閉じようとして、何かが意識を微睡みから引っ張り出す。その寝息を聞いて、吾輩の意識は完全に覚醒する。 「――ん、んんんんんっ!?」 がばっと上半身を起こし、吾輩は再び部屋を見渡した。どこだ? いや、本当は分かっている。これが全て夢だったら、と心が願っている。でも吾輩は見つけてしまった。部屋の片隅で、椅子に座り、腕を組んで眠る商人の姿を。 『吾輩はお主の役に立てているか? 』 「っ! わ、吾輩は、な、なななんっ!?」 あわあわと声に出せない悲鳴が出てしまう。酒のせいとはいえ、あんな弱音を吐くなど、ましてやあんなに肌を露わにしてっ! ……飲まなければ。酒を、酒を飲んで忘れなければ! この日、床で酔い潰れていた傭兵はとある修道女みたいな女が、樽に入った酒を飲み干すという恐ろしい夢を見たという。 だが現実は酒では解決しない。リーシャの町を出る頃にティフィンはそれを痛感する。 ■あらすじ 欲には金貨を。願いには勇気を。だが、金貨で刃は防げない――。 若き商人エドモンドは人外の剣に出会い、【彼女】を助けてしまう。 「吾輩は魔王の剣、ティフィンだ」 美しい女性になった魔王の剣は、商人エドとともに北へ向かう。 「吾輩は再び封印されなければならない。そうすれば魔王の復活を防げ、勇者をこの世界に生ませずに済むのだから……」 だがエドたちの前に現れる凄腕の傭兵少女、そして勇者とその剣…… 魔王の剣が、世界の敵となる前に、エドは語り出す。 「俺は商人だ。ここからは楽しい話をしよう。互いが儲かる話を」 そんな、金貨と旅と世界の物語。
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