『源氏物語』が魅力を保ち続けている要因として、そのストーリーや、語り方の魅力をあげることができる。その上で、見逃すことのできないのは、登場する人物たちの心理が丁寧に描かれていることである。近代になり、日本以外の国の人々が『源氏物語』に触れた時、その心理描写に驚き、世界最古の小説であると絶賛したのも当然である。 『源氏物語』の作中人物の心を表現する方法に気づいた人々は古注釈の研究者にも存在し、「人の心」と注釈していた。その作中人物の心を表現する形式・形態についての研究は近代になってから、佐伯梅友、龝田定樹、鈴木一雄によって始められ「内話」「心内語」という用語が与えられ定義された。先人たちの研究成果に基づき心内語を定義し『源氏物語』五十四帖に登場する全ての人物の心内語を抜き出し基礎資料を作るところから、私は研究を始めた。さらに『源氏物語』は「語り手」によって語られていることから、『源氏物語』全体を一つのディスコース(談話)としてとらえることができると考え、そのディスコースを視点の違いをもとに分類した。 すると、それまで、わかりにくいと思われた『源氏物語』の文章が立体的に見えて来た。『源氏物語』は、語り手が描写し、作中人物の会話や手紙を引用し、物語って行く。同時に、作中人物が心の中で思ったり感じたりしていることを、会話や手紙と同じように、心内語として直接的に引用している。さらに語り手は、時に評を加え、感想を述べ、『源氏物語』に登場する人物の心理を自由自在に語って見せる。 『源氏物語』は、「物語」であるので、基本的には「男と女の物語」として描かれている。本書『心内語で読む「源氏と女君の物語」―源氏物語 第一部から』の構想は、私自身の研究成果に基づいている。語り手の視点から語る文と作中人物の視点から発せられる会話や心内語に注目することで、重層的に語られる作中人物たちの心理を読み取る方法をとっている。「男と女の物語」の主人公を選ぶ基準も心内語の頻度数においた。頻度数から見ても、光源氏は第一部全体を通じての男主人公である。女君としては、第一部の四つのセクションから、それぞれ最も心内語数の多い空蝉、六条御息所、明石君、玉鬘に、第一部全体を通じて心内語数の多い藤壺と紫上を加え六人の女君を選び出した。心内語数が多いということは、思ったこと感じたことが、より多く物語の中に表現されていることを意味する。それ故、本書で取り上げる「源氏と女君の物語」の女君たちは、男主人公である光源氏にその思惟、心情において対峙し得る人物である。そういう魅力ある女君と関係を持つ源氏の物語を、巻を越えて読んでいく。 本書は、単なる現代語訳ではなく、作中人物たちの心のひだをとらえるような訳を試みている。また、物語を理解する上で必要と思われる社会的な事情、また、ユニークな語についての説明を必要なところで行っている。今まで『源氏物語』を読んできた方々には新しい読みの楽しさを提示できることを、読んでいない方には楽しい『源氏物語』の入門の書となることを願っている。
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