本書は、昭和40(1965)年から2年間、不染鉄から倉石美子さん(旧姓:滝沢)という、当時20代の女性宛てに、2年間にわたり送られた絵はがきを中心にまとめたものである。 その多くは味のある絵とともに綴られており、日々の小さな気づきや感動だけでなく、画家として、一人の人間としての思いも記されている。 やがてまなざしは遠く過ぎ去った日々にも注がれて、まるで目の前の出来事のように鮮明に描かれ、一種の自伝的要素をも含んでいく。 不染鉄と美子さんとの出会いは昭和37(1962)年10月。お茶の水女子大学生だった彼女は、奈良女子大学に通う友人に連れられて、不染の画室を訪ねた。 そこで見たこともない物に溢れる不思議な空間に驚き、一瞬にして不染ワールドに惹きつけられる。 その少し前、大学のある講義で「生きているふり」と「本当に生きる」ことへの問いかけに強く心を揺さぶられ、意味を求め悩んだ美子さんは、その真剣な思いを不染に伝える。当時、不染鉄はすでに70代。長き人生経験を経てもなお、正しい真実の絵を求めていた画家にとって、純粋な精神そのものの若者との出会いは心打たれる出来事であったと同時に、自身の魂に火を灯す、希望の光であったのかもしれない。 どの便りにも、夜更けに夢中になって筆を走らせていた画家の姿が浮かぶ。 絵はがき制作との出合いは本人にとっても発見であり、「本当の画とはこれである」という熱い思いを抱いた。 昨年40年ぶりに大反響を得て人々の知るところとなった「幻の画家・不染鉄」を知る上でも、絵はがきは大変貴重な記録であり、一方で「だれにでも見せて笑ってほしい」と願ったことからは、魅力溢れるこの画家の気取らない、あけっぴろげとも言える心が見えてくる。 すべてを慈しむ心に溢れた人・不染鉄の言葉は時代を超えて私たちに語りかけてくる。
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