死は、誰にでもいつか必ず訪れる。 超高齢化、多死化が急速に進む日本において、エンディングビジネス=終活は今後も間違いなく安定した成長産業だろう。親族との関係や地域社会とのつながりが希薄化し、いざ相続が発生した際に頼れる人がどんどん減ってしまっている昨今は、突然の場合にも、自力で情報を得、対処しなくてはいけない。 また、人生の終盤を安心・安寧に過ごすため、あらかじめ自らエンディングの準備をしたいと考える人も増えている。いずれの場合も、利便性に富み、合理的に情報を得られる仕組みの必要性はますます高まっていくはずだ。 鎌倉新書は、こうした日本社会の現在のニーズに完全にフィットした終活関連ポータルサイトをいち早く構築し、相続まで含めた多角的なサービスを充実させている業界のトップランナーである。 だがCEO・清水佑孝氏が、先代社長である父から家業の鎌倉新書を引き継いだ時点では、単なる仏教関連や供養業界向けの出版物のみを制作する出版社、しかも、8000万円もの負債を抱え、倒産寸前の状態だったという。だが、決して清水は諦めなかった。苦しい経営状況のなか、「ユーザーが求めているのは紙ではなく、情報そのものだ」という本質を発見し、IT化により「出版から情報加工業へ」と急転換させ、「葬儀・仏壇・お墓を横断的に結んだポータルサイト」を構築、ついにそのビジネス化に成功した。 近年ではさらに相続やその準備までも含めた終活領域全般へのアプローチも進み、東証一部上場を果たしたばかりか、2018年の株価値上がりランキング2位になるなど、投資家の熱い注目を浴びるまでに成長した。躍進の影には、CEO清水氏の類まれな発想や決断もあったはずだが、さらに後継を任せられる楽天出身の経営陣の存在など、人脈を含めた幸運も作用しているようだ。 上場後も利益さえ出せばいいということではなく、「人の命はいつの日か必ず終わる。だからこそ生きているときの充実を」とか、「目に見えないものへの畏敬を常に失わずにいよう」など、清水氏の人生哲学が今なお強く反映されているようだ。 著者は、2019年まで鎌倉新書で「プロモーション室長」を務め、清水氏や後継の歴代社長とも仕事をしていたノンフィクション作家の濱畠太。OBや現役社員を含めた人への取材を通し、鎌倉新書躍進の秘密に迫り、次なる挑戦までをレポートする。 目次 【第1章】 家業再建、そして上場。成長の裏に隠された苦悩 1 8000万円の借金は、成長のための負荷 2 大胆な業態転換。その発想の原点とは 3 成長痛と、一本の電話 4 片時も忘れない「常にパス・ファインダーたれ」の教え 5 公私混同OK。仕事とは何だろう? 【第2章】 徹底した決定スピードの速さこそが勝負を分ける 1 祖業をベースに、さまざまな関連サービスを展開 2 変化する家族のかたち、宗教観と死生観 3 拡大する終活マーケットの中心にいる人材たち 【第3章】 激動の供養マーケットで繰り広げる独自戦略 1 外部から招聘された社長への経営承継 2 大手を振って宣伝できない業界だからこそ 3 意思決定の速さで、子会社事業の撤退も被害は最小限 4 社会課題の解決に向けた新規事業に次々と挑戦 【第4章】 鎌倉新書流・組織運営ロジック 1 楽天からやってきたプロ経営者 2 「人こそが資産」鎌倉新書の人材論 3 楽天式の拡大戦略で組織を強化 4 「見えないものの力」を大切に……経営にも息づく“供養の心" 5 挑戦は止まらない
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