感染症を勉強する環境はこの10 年間で大きく改善しています。 多数の良質な訳本,マニュアル本,手引書が出版されており,よく初学者から「どの書籍を選べばよいのか?」と質問を受けるほどです。 本書は私が過去に所属した大学病院,研修指定病院で,依頼を受けて講義を行った際に講義を行った際に事前配布していた資料がもとになっています。 やがて,それらが勤務する病院の院内ポケットマニュアルとして配布されるようになり,さらには使い勝手がよいので出版してはどうかという話になりました。 当初は,『サンフォード感染症治療ガイド』をはじめとして,すでに日本語の類書があるため,あまり私自身が出版の意義を感じていませんでした。しかし,海外には感染症のハンディマニュアル本だけでもサンフォードのほかに,Cunha の『Antibiotics Essentials』や『Johns Hopkins ABX Guide』などがあります。 私は『ABX Guide』が好みですが,『Antibiotics Essentials』が好きな方もいるでしょう。やはり『サンフォード』がよい方もいるでしょう。マニュアルが複数あっても,それはそれでよいのではないか,私はこうしているというものを思い切って出版してみよう! と考えるようになったのが本書の出版経緯です。 本書の類書との違いや売りは何なのか? 1 つはハンディでありながら,市中病院におけるプライマリな感染症診療に必要十分な情報量であることです。ポケットサイズにこだわり,既存のマニュアルよりも項目を充実させています。 次いで,現場ですぐに役立つということです。海外のマニュアル本ではないため,日本の事情に則しています。各抗菌薬の投与量,妊婦への投与,注意点,さらには薬価がすぐにわかるように工夫してあります。「第1 章 抗菌薬」では,私が感染症専門医として自信をもってお勧めできる抗菌薬をシンプルに推奨しています。もちろん,私は製薬メーカーからの資金提供は一切受けておりません。 そして最大のポイントは,私好みの『Johns Hopkins ABXGuide』のように,抗菌薬,微生物,臓器病態別にまとめてあることです。この配列は,最初に提示した「感染症診療の8 大原則」に従った感染症診療を行ううえでも有用と考えます。 至らない点,足りない点,私自身が読者よりご指摘を受け学び直さなければならない点も多数あることは自覚しておりますが,東京“白金” 高輪台にある一市中病院で使われる感染症マニュアルが,全国の感染症診療の参考になり,多くの読者に目を通されることで研磨され,プラチナのように輝くことができるならば最高の幸せです。 2015 年3 月 自宅マンションより,遠く高輪台の輝く夜景を見ながら 岡 秀昭
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