イテリメン族とは、かつて広大なロシア・カムチャツカの地の大部分を占めていた民族。17世紀には少なくともその人口は1万人と推定され、日本のアイヌとの交流もあったが、伝染病の流行などにより人口が激減、さらにロシア人が侵入して以降は、ロシア人との同化が進んだ。その結果、彼らの言語「イテリメン語」もまた衰退の一途をたどり、わずかにロシア人の言語学者により細々と研究が続けられているに過ぎなかった。この希少言語に外国人が直接触れることができるようになったのは、1989年のソ連崩壊以降のこと。本書の著者もまた、大学院生だった1997年、初めてカムチャッカに入る。〈実際に話者たちが目の前で話すイテリメン語を初めて聞いたときの感動は、今でも忘れることができない〉(本書より)それから2015年に至るまで20回もの現地フィールド調査を重ね、実際に話されているイテリメン語を録音し、フィールドノートに記録した。その貴重な1次資料をもとに、イテリメン語の文法を明らかにしたのが本書である。日本語で書かれたイテリメン語に関する本はほとんどなく、また従来の研究とは異なる新事実も提示されている。言語の専門家はもちろん、人類の自然言語や先住少数民族の文化に興味がある人にとっても、本書の内容は知的なロマンと刺激を与えてくれるはずだ。ちなみに2021年現在、イテリメン語を流暢に話せる人は、全世界で数人というところにまで減少している。
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