おのれの強さは他人に見せるものではない。おのれに見せるものよ――。 剣の道に生きる者の孤独は、同じ道を歩む者にしか分からぬ。 今日もまた、小兵衛の非情の刃が冴えわたる。国民的大ベストセラー、その第八巻! 足軽という身分に比して強すぎる腕前を持ったがために、うとまれ、踏みにじられ、孤独においこまれた男。秋山小兵衛はその胸中を思いやり声をかけてやろうとするのだが、一足遅く、侍は狂暴な血の命ずるまま無益な殺生に走る……表題作「狂乱」。 ほかに、冷酷な殺人鬼と、大治郎に受けた恩義を律儀に忘れない二つの顔をもつ男の不気味さを描く「仁三郎の顔」など、シリーズ第8弾。 【テレビドラマ化常連作品】 加藤剛・山形勲(1973年4月7日 - 9月1日) 中村又五郎・加藤剛(1982年12月3日 - 1983年3月4日) 藤田まこと・渡部篤郎、山口馬木也(1998年10月14日‐2010年2月5日) 北大路欣也・斎藤工(2012年8月24日、2013年12月27日) ※佐々木三冬…音無美紀子、新井春美、大路恵美、寺島しのぶ 【目次】 毒婦 狐雨 狂乱 仁三郎の顔 女と男 秋の炬燵 解説:常盤新平 本文より そのとき、二人の家来が聞えよがしにいう言葉が、石山の耳へ入った。 「溝鼠(どぶねずみ)が一匹いると、御屋敷内が臭くてかなわぬ」 「ほれ見よ。わしの鼻も、こんなに曲ってしもうたぞ」 くるりと、石山の体が反転した。 押えに押えていたものが、石山の体内で弾け散った。 通路を曲った石山甚市が腰の大刀を引きぬきざま、走り寄って来るのを見て、二人の家来が、 「な、何をする……」 「あ、あっ……」 逃げようとするのへ、物もいわずに大山が大刀を揮った。(「狂乱」) 本書「解説」より 『剣客商売』八冊目の『狂乱』には悪い女が出てくる。「毒婦」のおきよ、「女と男」のお絹、「秋の炬燵(こたつ)」のおさい。『剣客商売』の作者はこういう女を描くのがじつにうまい。小説家ならどんな女でも描いてみせて当然であるが、池波さんは毒婦や悪女、妖婦を知りつくしているかのようである。池波さんの新作を読むとき、どんな女が登場するかということも愉しみの一つだった。 ――常盤新平(作家) 池波正太郎(1923-1990) 東京・浅草生れ。下谷・西町小学校を卒業後、茅場町の株式仲買店に勤める。戦後、東京都の職員となり、下谷区役所等に勤務。長谷川伸の門下に入り、新国劇の脚本・演出を担当。1960(昭和35)年、「錯乱」で直木賞受賞。「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3大シリーズをはじめとする膨大な作品群が絶大な人気を博しているなか、急性白血病で永眠。
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