同志社大学生命医科学部の野口範子教授は、本書の基となる同志社大学での講座「サイエンスとインテリジェンス」が開始される経緯を次のように述べられています。 同志社大学にサイエンスコミュニケーター養成副専攻が設置されたのは2016年4月である。サイエンスコミュニケーターとは、“科学リテラシーを社会の隅々にまで行き渡らせる役割を担う人"ということができる。サイエンスコミュニケーターを育てるためには、現在の日本の教育システムでは分断されてしまっている文系と理系の学生が、科学と社会についてともに学び合う環境を作ることが重要と考えた。そこで、2015年から本学のいくつかの文系の学部に声をかけ、賛同が得られた経済学部と手を組んで開始した。この年に副専攻専用に開設した科目は11科目であったが、私が担当する科目の中で、佐藤優先生にぜひとも講義をお願いしたいと考えていた。(中略) 佐藤優先生からどんどん投げられる質問にタジタジする学生を私は冷や汗をかきながら側で見ていたが、いつしか学生も私も講義に吸い込まれていった。 その後、2018年度に野口教授は佐藤優氏を講師とし「サイエンスとインテリジェンス」の講座を始めます。 この講義の中で佐藤優先生から提案されたのが、「“サイエンスコミュニケーター"という言葉が含まれていればテーマはなんでも自由に選んで原稿を書いてみよう。字数は5万字。それをまとめて本にする。」というものであった。手を挙げた学生は4人。5万字とはすごい。そうは書ける量ではないと思った。そして出てきた原稿に目を通して、また驚いた。皆、よく勉強している。そして何よりも活き活きと書き綴って、自分の考えをしっかり述べていることに敬服した。学部2回生から3回生にかけてサイエンスコミュニケーター養成副専攻で学んだ学生の努力の成果がここに集約されている。 本書『サイエンスとインテリジェンス』「まえがき」より抜粋。 講師を引き受けられた佐藤優氏は、本講義の意義を次のように述べられています。 私はサイエンスコミュニケーター養成カリキュラムを構成する「サイエンスとインテリジェンス」の授業を通して、学生たちに自分の頭で考える習慣を身につけてほしいと願っている。自分の頭で物事の是非を判断する力がなければ、専門家や政府など権威ある人々の主張をそのまま鵜呑みにしてしまう危険性があるからだ。 このことは新型コロナウイルスをめぐる反応に如実にあらわれている。たとえば、専門家の中には「他人との接触を8割削減すれば、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことができる」といった主張をしている人がいる。8割という数字の根拠は何か、どういう計算式から導き出された数字なのか、こうした点を具体的に検証していけば、この主張に科学的な裏付けがないことはすぐにわかるはずだ。 しかし、このような問題を一つ一つ検証していくには膨大なエネルギーが必要となる。世の中には情報が溢れているため、いちいちそんなことをやっていたらクタクタになってしまう。そのため、私たちは自分の力で情報を分析することをやめ、誰かが代わりに分析し、自分を説得してくれることを期待するようになる。ドイツの哲学者であるユルゲン・ハーバーマスが言うところの「順応の気構え」だ。その結果、「よくわからないけど、専門家が言っているのだから間違いないのだろう」として、科学的に成り立たない議論でも簡単に受け入れてしまうのである。 また、文理融合を進める狙いについて次のように述べられています。 「サイエンスとインテリジェンス」には、文理融合を進めるという狙いもある。しばしば誤解されているが、文理融合とはある一人の教員が文科系と理科系の科目を同時に教えるということではない。細分化が進むアカデミズムの世界で、複数の専門分野にまたがって授業をできる教師は皆無と言っていい。 文理融合において重要なのは、自分の専門分野に関して非専門の人たちが理解できるような言葉で説明することである。文系の専門家であれば理系の人が理解できるように、理系の専門家なら文系の人が理解できるように説明するサイエンスコミュニケーターとしての力が求められる。それによって知の共通の土俵を作っていくことこそ、文理融合が目指すべきものである。「サイエンスとインテリジェンス」ではこうした作業を通じ、硬直化したアカデミズムを打破していきたいと考えている。 今回「サイエンスとインテリジェンス」の受講生たちの論文を書籍化したのも、硬直化したアカデミズムに対する問題意識からだ。日本のアカデミズムは非常に保守化しており、20代の研究者が書籍を出すことはほぼ不可能である。しかし、大学生あるいは大学院の修士課程の段階で自分の着想をそれなりの文字数でまとめることは、知の裾野を広げる上できわめて重要である。しかも、それを出版すれば、多くの人の批判にさらされるため、学生たちには普段の勉強以上の負荷がかかる。若い頃にこうした経験を積んでおけば、その後の人生で必ず役に立つ。 本書『サイエンスとインテリジェンス』「あとがき」より抜粋。
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