医療で“風邪"を診るということ わが国の医療制度の特徴は,国民皆保険とフリーアクセスにある.こういった医療制度の最大の長所は,「誰もが,必要と思ったときに医療を受けられる」という安心感と平等性にある.日本は世界一医療機関へのアクセスがよい国であるといえる. これはわが国の医療制度における最大の利点であるが,医療機関へのアクセスのよさは,軽症患者でも簡単に受診できるということにつながり,過剰診療に傾きやすいことに注意が必要である.実際に日本では,欧米の数倍から10 倍もの小児患者が医療機関を受診しており,その大多数は風邪の子どもである. そのような状況であるにもかかわらず,わが国の小児科医は“子どもの風邪にどのように対処するか?"という問題に,真摯に向き合ってこなかった.保護者が満足するように,“念のため"の投薬を行っておくという考えが支配的であった.“風邪を引いて自然に治る"という経過に医療的介入が行われることが普通になっていたのである.また,風邪の診断はきわめてあいまいなため,医師がリスク回避のため投薬してしまうということも,その背景としてある.“子どもの風邪"に対し,小児科医はリスク回避のため,保護者は満足と安心のため,さまざまな投薬が行われてきたといえる.しかし実際は,風邪に対するほとんどの投薬に効果はなく,逆に新たなリスクを生み出していることさえあると思われる.われわれ小児科医は,子どもの最大の利益のために行動すべきだが,現在の小児診療はそれができているのだろうか? 医療的介入の最大の問題は,保護者(主に母親)が「自分が治した」という経験をする機会を損なってしまうことである.その結果,母親は自然に治る風邪を,投薬のおかげで治ったと勘違いしてしまうことが多い.風邪の最大の治療は母親によるホームケアである.人は苦しいときに助けてもらえれば,ずっと覚えているものだ.子どもが風邪を引いたとき,愛情をもって看病された経験は母と子の絆を固いものにするだろう.風邪の子どもに対し,小児科医は投薬よりもホームケアのサポートをするべきなのである. 今後も多くの子どもたちが風邪で小児科外来を受診するだろう.小児科医の使命は“子どもたちの健やかな成長と発達をサポートする"ことであり,そこに大きな社会的意義があるのは疑いがない.真に子どもたちのためになる診療をしてこそ,小児科医が社会で存在感を示し,社会的地位を上げることができるのである.子どもの風邪診療を変えていこうではないか.それは小児科医自身のためでもある.
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