訳者が医学部を卒業したのは30年以上前だが,当時はちょうどMRIの黎明期であった.医師も技師も,それまで慣れ親しんできたX線とはまったく異なるMRIの画像原理にとまどいながら,手探りで勉強している時代であった.まとまった教科書などなかったが,簡単な「MRIの原理」「MRI入門」のような本がいくつかあり,皆それを読んでいた憶えがある.最近は詳しい大部の教科書がたくさんあり,これから勉強を始める若い人たちにとっても恵まれた環境であるが,その一方で当時のような簡単にMRIの基礎を概観できる教科書は少ないように思う.本書の翻訳を打診されたとき,まず気づいたのは,30年前のMRI入門書を思わせる簡潔な構成と,その図版の美しさ,わかりやすさであった.あらためて見回してみると,現在は意外にもこのような簡便な入門書がないと感じ,翻訳を進めた次第である. 本書はMRIの基礎原理の解説書である.その特長は,以下のようにまとめることができる. 1.見開き2ページ,美しいイラストで,MRIの全体像がわかる 原子の構造からMRIの安全性まで,MRIの理解に必要な事項を55章に分けて順を追って解説している.各章はいずれも見開き2ページからなり,左ページにはユニークで美しいオリジナルのイラストが掲載されている.このイラストを見るだけで,とりあえず概略がわかるようになっている.より詳しい,しかし簡潔な解説が,右ページに書かれており,さらにそのエッセンスが各章末に表形式のキーポイントとしてまとめられている. 2.実際にMRIを撮像する初心者にやさしい記述 著者はイギリスで後進の指導,教育に携わる放射線技師であるが,このため厳密さを多少犠牲にしてでもわかりやすく説明しようとする姿勢が随所に現われている.MRIの撮像は,常に時間と画質のトレードオフを念頭に置き,様々なアーチファクトの低減に配慮する必要があるが,本書は初心者が実際に撮像にあたる場合,いかにアーチファクトの少ない高画質の画像を短時間に撮像するか,という点に特に力をいれて解説している. 3.実用的な付録が充実 巻末の付録は「画質の最適化」,「略語一覧」,「用語集」からなる.いずれも,数多くのパラメータをいかに設定するか悩み,意味不明の略語や専門用語にとまどう初心者が,直面する問題をすぐ解決できる配慮が行き届いている.なお日本語版には,原書のウェブページに掲載されている「発展事項」と「復習問題」も本の中に収載した.「発展事項」は各章の解説を補完する知識が示されており,復習問題」では必要最低限の知識を確認することができる. 4.直感的な理解を助けるアニメーション MRIの原理のなかでも理解が難しい磁化ベクトルの動き,パルス系列の仕組みを中心に,美しいアニメーションが用意されており,これによって図や言葉ではいまひとつわからない部分が,直感的に理解できる.本書の読者はこれを出版社のホームページに設けられた動画ページから利用することができる. このように本書は,MRIの原理を短期間に理解し,かつその理解がMRI撮像の実践に結びつくように仕組まれている.これからMRIを勉強しようとする放射線技師,放射線科医,臨床医の入門書として必ずや役立つものと考える. なお,翻訳はおもに放射線科医の百島が担当し,技術的な問題の検討,確認をMR研究者の押尾が担当した.最後になったが,編集部の正路修氏には,企画から最終校正まで常に完璧ともいえる綿密な編集作業をしていただいた.あらためてここに深甚の謝意を表するものである. 2017年1月 訳者を代表して 百島 祐貴
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