********************************** フロイトとならんで現代精神医学の基礎をきずいた著者の主著である。精神医学をまなぶ者は誰でも一度は読むべき古典中の古典であり、ここにはじめて邦訳される。 モレルが1860年初めて用いたフランス語の早発性痴呆という言葉のラテン語訳Dementia praecoxに疾病単位としての概念規定を行なったのはクレペリンの本書第5版(1896)であった。20世紀初頭の多数の精神病患者たちが医師の診断の混乱に悩まされた状態は、つぎのようなブロイラーの記載からも知られよう。「……このようにして多数の患者は、いろいろな病院で受診するたびに、その病院の数だけの診断を背負わされた……次のような出来事は普通のことであった。ある病院では大きな一つの壺にデメンチアと書いてあった。ところが医師が代わって新任の医師になると、その大きな壺のそばにあった、パラノイアというレッテルを貼った壺を大きくして、入院患者をつぎつぎと、この壺のなかに入れかえた。彼は前任者の錯誤を訂正するつもりであった」と。そして「このような混乱に対して、クレペリンによる早発性痴呆の概念の樹立は、明瞭さと秩序とをもたらした。これは真実な疾病概念である」と。ブロイラーは『早発性痴呆あるいは精神分裂病群』1911を著わし、クレペリンの概念をほぼ全面的に継承した。しかしそれは、新しい呼称として《精神分裂病》と呼ばれることになる。 精神分裂病の診断の大きな里程標としての本書は、その提示の84年後のアメリカの新しい診断基準DSM-IIIによって示されたような現代的状況下で、かえって問題把握に新鮮な意味と輝きをもつ。 [1986年初版発行]
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