認知症には診断基準やガイドラインが存在します。しかし,実際の診療や介護の場面では患者さんに何が起きているのか,診断をどうするべきか悩むケースも多く,必ずしもこの“診断基準"なるものをフル活用できていないのではないでしょうか? その理由は,診断基準に記載されていることが真の意味で「わかっていない」からでしょう。その“わからないもの"の多くは臨床症状ですし,画像検査も含まれているかもしれません。つまり,診断基準を上手に使いこなすにはそれ相応の知識や技量が必要です。また,診断基準は科学的な根拠の上に成り立っていますが,これについてもある程度は知っておく必要があります。 本書は初めて認知症について学ぶ方でも読めるように,簡易な文面で,かつ字数も極力抑えることを念頭に企画されました。本書を読み進めるうち,読者は診断基準やガイドラインが自然と身につき,かつ使いこなすための科学的カラクリ(病態生理)も学べるように構成しています。認知症の診療では「これはどっちにすればいいのだろう」?と迷うケースも当然あると思います。本書には,そういった日常のクエスチョンにも答えられるような考え方も記載しました。 認知症の多くは今現在,根治療法が存在せず,保険適応となっている治療選択肢が少ないのも特徴です。そのことは介護の場面での苦労を生み出し,また,どのように対応すべきか悩むことが多い分野でもあります。そのため,診断・治療だけでなくマネジメントも含めて,それぞれについて現在わかっている科学的証拠(エビデンス)を知ることも大切ですので,本書ではそれらをわかりやすく取り上げています。 このように,診断基準を支える知識を補い,日々のクエスチョンに答え,マネジメントや治療を充実させる科学的証拠を取りあげて「,わかりにい」認知症を「わかる」に変えるのが本書です。認知症分野を幅広く,かつコンパクトにまとめることで,認知症診療を専門としない先生方はもちろん,改めて全体像を整理したい専門医の先生方にもお勧めできる本となっています。 本書が多くの患者の支えの一助になることを願っております。 2020 年 11 月 東 晋二 本書の目的についてはすでに東晋二先生により十分に述べられていますから,それをただ繰り返すことはここでは避けておきます。そのかわり,この本を出版するにあたり東晋二先生とタッグを組んだ理由をここで語っておきましょう。 東先生と私は,東先生が筑波大学附属病院に勤務されていた間は特に関わりが多く,仲がよかったことが今回タッグを組んだ最大の理由でしょう。仲がいいといってもプライベートで酒を酌み交わすような意味ではありません。私たちは同じ病棟で働き,時間を見つけてはランチを共にし,医療につき語り合う中で,精神科医療・精神医学に携わる者として多くの価値観を共有しているのを感じていました。日々の臨床を実践する際,どこまでが分かっていて,どこからが不明確なのか,精神医学が全知全能でも万能でもなく,私たち自身がすべてを知るわけでもないと知る謙虚さを意識しながら,その範囲でできることを模索する,という姿勢も共通しており,その姿勢は本書にもよく表れています。また,何かを語る上で,無闇に言葉を連ねて冗長にすることを慎み,伝えるべき内容を選び的を射た発言を大切にし,相手に伝わる説明に努める姿勢も共通しています(ちなみに,出席した会議が長びけば「お前が会議を早く進めさせろ」と机の下で互いにつつきあう仲でもありました)。ですから,本書は情報が豊富でも読みきれず頭に入らない難解な本になることを避け,それでいて本格的な専門知識をできるだけ正確に読み手に届けられるよう書かれているはずです。 そして,私と東先生とで違う点もあります。それは,私自身は認知症に精通していたとはいえず,東先生は認知症につききわめて高度なレベルで詳しいということ。本書は「松崎が理解できる本,それでいて専門的な内容まで網羅した本」を目指して書かれ,私が抱く日常臨床の中での疑問や,認知症の専門家が語る内容への戸惑いなどへのアンサーも含めて執筆されたものです。そんな本書を通して,認知症のエキスパートである東先生の英知を皆様にお届けできることを喜ばしく思っております。 執筆の経緯と,私たち二人の想いを知った今,皆様には本書がただの無味乾燥な情報の塊ではなく,ひとつの人格を持った本であることを感じていただけたのではないでしょうか……いや,ここはまだ序文です。ここから先,認知症の方々,そのご家族,医療や福祉の場で認知症の方々と向き合う専門職への熱い想いを胸に,少しでも認知症についての理解を深めていただけるよう,読者に語りかけるつもりで綴られた血の通った言葉が続きます。日本の多くの高齢者の方々に,そして,読者である医療・福祉の皆様に,この一冊が少しでも救いをもたらすことを心から願っております。 2020 年 11 月 松崎朝樹
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