1958年(昭和33年)春にわが国初のエチレンプラントが操業開始して以来、60年余りの歳月が経過した。米国に次ぐ世界第2位の規模を長らく誇っていた日本の石油化学工業は、エチレンの生産量では2006年に中国に追い抜かれ、世界同時不況に直面した2008年にはサウジアラビアと韓国にも追い抜かれるなど、ボリュームの面では世界第5位にまで順位を落とした。石化業界は60年代の高度経済成長に伴う需要急拡大で設備拡張競争に入り、70年代に経験した新増設ラッシュとその後のバブル崩壊による低迷、円高を契機とした国際競争力確保のための業界再編への取り組みなど、激動の歴史を積み重ねてきた。21世紀に入ると、住友化学と三井化学による経営統合計画と破談、日本ポリケムを中心とするポリオレフィン事業統合会社の発足(2003年8月)、三井化学と出光興産のポリオレフィン合弁会社発足(2005年4月)、住友化学とサウジアラムコによるラービグ計画合意(同8月)など、今後の方向性を指し示す大きな出来事が相次いだ。さらに2010年4月には出光興産と三井化学が千葉ケミカル製造を設立、翌2011年3月には旭化成ケミカルズ(現旭化成)と三菱化学(現三菱ケミカル)が水島地区クラッカーの統合を決めるなど、エチレンセンター再編に向けた布石が打たれた。そして2014年以降にセンター再編がいよいよ本格化。同5月に鹿島で三菱化学が1基化を実現したのに続き、2015年5月には千葉で住友化学がクラッカーを停止し、京葉エチレンから三井化学が離脱した。2016年2月には旭化成が水島のクラッカーを停止して三菱側へ集約し、現三菱ケミカル旭化成エチレンによる運用となった。これにより国内のエチレン設備は3基減の12基体制となった。国内需要の漸減が続く精製分野でも再編が進み、2017年4月にJXホールディングスと東燃ゼネラル石油が統合して「JXTGホールディングス」が発足(2020年6月ENEOSホールディングスに改称)。2018年7月には紆余曲折を経て出光興産と昭和シェル石油が経営統合に合意し、2019年4月に新統合会社が発足した。国内石化産業の相次ぐ再編の背景には、人口減少に伴う需要減少予測や、北米でのシェール革命に伴うエタンクラッカーの建設ラッシュ、中国におけるCTO(石炭toオレフィン)、MTO(メタノールtoオレフィン)の新増設による需給悪化懸念があった。その反面、2014年以降はしばらく好況が続き、過去最高益を更新する化学企業も続出したが、2018年以降は米中貿易摩擦をはじめとする地政学リスクが台頭。先行きに暗雲が垂れ込めていたところに、2020年になって新型コロナウイルス(COVID19)という未曽有の脅威が襲い掛かり、世界中で経済活動が停滞した。この影響による需要減少と価格下落のため、石油化学事業も一転して大幅な業績悪化に見舞われている。本書はこうした日本の石油化学工業の現状と今後の展望を具体的な企業活動や製品毎の動向から探ろうとするもので、1962年の発刊から数えて今回で59回目を迎えた。本書編集に際しては、関係各社をはじめ、諸団体に惜しみない御協力、御指導を頂戴した。最後に、本書を利用される読者が石油化学工業の現状を理解し、未来戦略を見い出されんことを切に願う次第である。
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