【新装版、新・三島由紀夫】 炙り出される「エロスの咎(とが)」、「貞淑な妻」の本意とは? 「サド侯爵夫人」は澁澤龍彦に感化され執筆。芸術祭賞を受賞した。〔新解説〕平野啓一郎 倒錯した愉楽の使徒・サド侯爵。風俗壊乱で獄にある彼を、妻ルネは十八年にわたり待ち続ける。だが釈放の刹那、一転、修道院へと向かう決意を固め……。果して妻は、夫の何を信じていたのか(「サド侯爵夫人」)。血塗られた粛清の奥底に潜む、独裁者を衝き動かした狂気とは(「?わが友ヒットラー」)。 互いに照応し合う「一対の作品」と自ら評した、代表的戯曲2篇。自作解題を付す。 【本書収録「わが友ヒットラー」より冒頭】 アドルフ・ヒットラー 思ってもみよ、諸君、われらの祖国は、今や屈辱の時を脱して、歩一歩、新らしい独立と建設の時に向って進みだした。十八年前を思い出したまえ、あの大戦末期の一九一六年を。あのころ私は、勇敢な兵士として戦って負傷し、ベーリッツの衛戍(えいじゅ)病院にいたが、そこで腸(はらわた)の煮えくりかえるような思いがしていた。戦後ドイツ国民の魂を腐らせた黴菌(ばいきん)は、すでにそのときに胚胎(はいたい)していたのだ。…… 三島由紀夫(1925-1970) 東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、54年『潮騒』(新潮社文学賞)、56年『金閣寺』(読売文学賞)、65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
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