大屋久寿雄の大量の遺稿の一部は、七十年の歳月を経てかなり劣化していた。大屋が心血を注いで執筆したであろう原稿を慎重にめくりながら読み進めて行くと、大屋が汪兆銘(汪精衛)工作に関与していく様子が克明に描かれ、引き込まれて行った。 戦後まもなく、四十代前半で亡くなった大屋久寿雄の名前を知っている人は多くはないであろう。大屋は戦前、同盟通信記者をしていた。同盟通信社は国策によって設立された通信社で、終戦直後、自主解散した。共同通信社と時事通信社の前身である。わたしが大屋について調べていたのは、『国策通信社「同盟」の興亡—通信記者と戦争』(花伝社刊)の執筆のためであった。調べているうち、大屋が同盟記者のなかで、ひときわ異彩を放つ異能の記者であることがわかった。(解説より 鳥居英晴) 目次 痛快記者、歴史の街道を歩く 保阪正康(ノンフィクション作家) ix 教訓の宝庫 石山永一郎(共同通信編集委員) xiv 第一部 「支那事変」 葉 山 天 津 1 北支へ派遣 6/2 塘沽に上陸 8/3 陣中新聞 10/4 天津庸報社 12/5 天津支局長 15/6 天津の日本租界 18/7 玉菊 20/8 天津租界の暗闇 26/9 同盟社員初の戦死者 28 北 京 1 森の都 31/2 軍の検閲 32/3 軍報道部の暗闘 34/4 軽蔑される日本人 36/5 洋俥代論争 39/6 美人女給 41/7 芸者小千代 45/8 無頼漢たち 49/9 前線の略奪と北京の平和 51/10 ギルド制 53/11 聯合系と電通系 56/12 三角太々 59/13 事変犠牲者 63/14 マダム・レイ 69 済 南 74 綏 遠 81 1 ハノイへの辞令 81/2 憲容 82/3 張家口の茶館 86/4 日本の看板 89/5 厚和の支局長 93 仏印へ 96 1 丁士源の忠告 96/2 平壌の末弟 99/3 ハノイ特派の舞台裏 101/4 青年記者黒沢俊雄 103/5 上海から香港へ 108/6 貨客船クワントン号 111/7 ひとり角力 113 第二部「和平工作」 1 ハイフォン港 120/2 石山ホテル 124/3 漆屋 127/4 猜疑と白眼 130/5 日本人社会 136/6 ボーイ「グェン」 143/7 生命の価値 148/8 青山のお米 155/9 ホンゲイの老夫婦 160/10 虎御前 166/11 カムチェンの夜 172/12 国境の秋 178〈/欠落〉/19 不思議な老安南人 182/20 コーラムとコーナム 191/21 変る香港 196/22 静かなるハノイ 204/23 汪精衛か王寵恵か 207/24 潜める汪 215/25 汪は居た! 220/26 遽しき年の瀬 226/27 タム・ダオか、ドーソンか 233/28 奇怪な失踪 238/29 ルイ・オール 244/30 男と女 250/31 曽仲鳴 258/32 祝い鯛 264/33 職業的競合い 267/34 コロン街二十七番地 272/35 張伯先先生 277/36 お祭り 285/37 再び香港へ 289/38 遊妓陳璧君 293/39 凶報 297/40 陳昌祖 301/41 中山先生 306/42 夜の太湖 312/43 客待ち 315/44 別離の泥酔 322/45 病める客人 326/46 コロン街へ 333/47 から騒ぎ 339/48 脱出前夜 347/49 カトバの島より 353/50 脱出の後 359/51 不仁関 363/52 東京へ 372/53 東京の初夏 376/54 奇縁 383/55 四十日ぶり 388/56 さらば仏印! 392 第三部「欧州戦争」 欧羅巴へ 1 上海の共同宿舎 398/2 ユダヤ難民 399/3 梅花堂 402/4 汪精衛と面会 404/5 阿媽 406/6 欧州急派の電報 409/7 三日間の大時化 412/8 日布時事編輯長 415/9 名所めぐり 417/10 妻の同級生 418/ 11 邦字新聞記者 421/12 皆藤と友松 424/ 13 幼友達 426/14 エア・ガール 430/15 静かな編輯室 433/16 萩原忠三 435/17 加藤万寿男 438〈/欠落〉 バルカン諸国一巡 〈欠落〉/6 失地恢復 441/7 酒匂秀一大使 444/8 森元治郎 446/9 黒海を南下 449/10 トルコの真の恐怖 450/11 トルコの新聞社 453/12 踊り子アニータ 455/13 アニータの告白 458/14 第二回目のバルカン巡りへ 460/15 特派員と地元記者 462/16 森の「重大事件」 464/17 日本公使館の乱脈 467/18 町田襄治一等書記官 469/19 二組の男女 471/20 夜の女ポーレット 473/21 森の恋人 476/22 氷結したダニューブ河を渡河 478/23 蜂谷輝雄公使 481/24 ドガンとナディール 484/25 イスタンブールの日本大使館 486 パリから再びバルカンへ 488 1 ローマの日本人新聞記者たち 488/2 チアノ伯 490/3 朝日の磯部記者 493/4 七年ぶりのパリ 495/5 井上勇 496/6 夜のパリ 498/7 微妙な独伊関係 500/8 日本語学生ソーシャ 503/9 失地恢復協会のエンマ 505/10 ドイツへの恐怖 507/11 独軍、全面行動開始 510/12 再びブカレスト 512/13 観測電報 514/14 アバス通信社記者 516/15 フランスの降伏 518/16 トルコ外相との会見 520 ネルミン 1 出会い 522/2 トルコの警察 525/3 ボスフォール海峡 527/4 ソ連南に動く 529/5 寂寞感 531/6 ユダヤ人の取引 532/7 嫉妬 535/8 氾濫するドイツ人 537/9 和子夫人 538/10 高尾夫人 541/11 ニューヨーク・タイムズ記者 543/12 アニータの出現 545/13 愛と憎悪 547/14 伊藤述史 549/15 送別会 552/16 アニータとの別れ 553/17 松岡旋風 555/18 スペイン娘 557/19 ネルミンの自序伝 559/20 痴話げんか 561 第一の別れ 1 安達鶴太郎 562/2 女性記者エルフォール 565/3 ネルミンの凶暴 568/4 UP記者追放 570/5 倉田一家の引きあげ 571/6 英紙記者追放 573/7 ヴィシーへの転進命令 575/8 ドガンの窮乏 577/9 ソーシャとの再会 579/10 天羽英二大使 581/11 〈以下欠落〉 第二の別れ 〈欠落〉/4 外国記者会見 584/5 食糧切符 586/6 戦争の明暗 588/7 妙な国 590/8 ベルリンの日本人 592/9 ドイツ嫌い 594/10 ベルリンのクリスマスイーヴ 596/11 江尻進 597/12 帰国までの日々 599/ 13 本田良介 602/14 ネルミンの服毒 603〈/欠落〉/21 日本の匂い 605/22 激変したハノイ 606/23 夕暮れの羽田 610 第四部「太平洋戦争」 はしがき 第一章 南仏印進駐 618/1 栗林社会部長逮捕さる 618/2 玉川警察署の特高 622/3 水野成夫 625/4 岡村二一 629/5 突然の訪問者 633/6 南部仏印へ 636/7 軍報道班員 640/8 記事ならざる記事 643/9 観察者と報道者 647/10 溢れる日本人 650/11 汪精衛と再会 653〈/欠落〉/17 ビルマの寝仏 655/18 ジャカルタへ 658 エッセイ集 戦争巡歴 戦争と共に 662/陣中新聞 674 敗戦雑記帳 八月十五日 680/虚脱状態 682/終戦前夜 685/近衛兵の反乱 692/敗戦国民のバカ面 695/同盟の解散と新聞界の変動 700 合作社〝時事〟の現状と将来に関する考察 古野さんに読んでいただくために。 704〝/合作社〟という、経営洋式の必然的な欠陥に関する疑惑について 705 [解説]異能の記者 大屋久寿雄 鳥居英晴 716 フランスで見つかった大屋の手紙 717/通信記者になる 719『/戦争巡歴』 722/汪兆銘工作 724/大屋の虚報 727 大屋の著作 大屋久寿雄年譜 人名索引
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