城山三郎が切り拓いた、経済小説というジャンル。 その城山文学の原点にして、経済小説の魁。珠玉の七短編を収録。 直木賞受賞の表題作は、株主総会の席上やその裏面で、命がけで暗躍する、財界の影武者ともいえる総会屋の老ボスを描く評判作。ほかに交通事故の時だけタクシー会社の重役の身代りで見舞いや弔問にゆく五十男の悲しみを描いた「事故専務」をはじめ、資本主義社会のからくり、陰謀などを、入念な考証に基づき、迫力あるスピード感と構成力で描く本格的な社会小説7編を収める。 【目次】 総会屋錦城 輸出 メイド・イン・ジャパン 浮上 社長室 事故専務 プロペラ機・着陸待て 解説:小松伸六 本書収録「総会屋錦城」より 〈あれが内藤錦城。総会屋の元老だ。若いときは人斬り錦之丞(きんのじょう)と云われ、実際に総会で人を斬った。日本刀で斬りつけ、血しぶきが天井にまで届いた……〉 会場に出入りする職業的株主、総会屋たちは錦城の横を通る度に、軽く腰を屈めたり、眼で会釈したりする。ことさら目立たぬように努めた会釈ぶりは、錦城に云いふくめられているもののようであった。錦城は腕組みしたまま、うすく開いた眼もとでそうした人影に応える。席に着いてから閉会後退場するまで、錦城はその姿勢を崩さない。…… 本書「解説」より 昭和三十年代の日本の文壇に二つの事件があった。一つは松本清張氏をその頂点とする推理小説の流行、一つは城山三郎氏をそのパイオニーヤ(先駆者)とする経済小説の出現である。(略) (本書収録の)いずれの作品も、これまでの作家が手をつけることの出来なかったユニークな世界を描いていることだ。その点で城山氏は実に異色の作家といえるわけだが、そのためには、氏はまた「よく調べる」作家でもあるわけだ。 ――小松伸六(文芸評論家) 城山三郎(1927-2007) 名古屋生れ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。一橋大学を卒業後、愛知学芸大に奉職し、景気論等を担当。1957(昭和32)年、『輸出』で文学界新人賞を、翌年『総会屋錦城』で直木賞を受賞し、経済小説の開拓者となる。吉川英治文学賞、毎日出版文化賞を受賞した『落日燃ゆ』の他、『男子の本懐』『官僚たちの夏』『秀吉と武吉』『もう、きみには頼まない』『指揮官たちの特攻』等、多彩な作品群は幅広い読者を持つ。2002(平成14)年、経済小説の分野を確立した業績で朝日賞を受賞。
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