山の厳しさ、山の美しさ、山の恐ろしさ……、そこに繰り広げられる人間ドラマ。 2020年、没後40年。新田次郎山岳小説で、泰然たる自然に思いを馳せる。 昭和48年の6月から7月にかけて、著者はアラスカを取材。その後、フランク安田の故郷・石巻へ。取材の道中を記した「アラスカ取材紀行」を巻末に付す。 明治元年、宮城県石巻町に生れた安田恭輔は15歳で両親を失う。外国航路の見習船員となり、やがてアラスカのポイントバローに留まった彼はエスキモーの女性と結婚してアラスカ社会に融けこんでいく。 食糧不足や疫病の流行で滅亡に瀕したエスキモーの一族を救出して、アラスカのモーゼと仰がれ、90歳で生涯を閉じるまで日本に帰ることのなかったフランク安田の波瀾の生涯を描いた感動の長編。 【目次】 第一章 北極光(オーロラ) 第二章 北極海 第三章 ブルックス山脈 第四章 ユーコンのほとり 終章 アラスカ取材紀行 参考文献 解説:尾崎秀樹 著者の言葉 この作品は海外取材を基盤としたものであり、短期間に力を集中したものとして、私の作品の中では、特異な存在となるであろう。作品のよしあしは読者の判定に任せる以外にないが、いままで、この仕事ほど、書かねばならないという自意識に取り憑かれたものはなかった。フランク安田こと安田恭輔という人物に惚れこんでしまったからであろう。(本書「アラスカ取材紀行」より) 本書「解説」より 彼(新田)は単にフランク一人に光をあてるのではなく、その周辺の人物やエスキモーたちの生態、また彼らをとりまくアラスカの自然にひろく目をくばり、ゴールドラッシュに湧くアラスカの状況や、白人たちのさまざまな姿、さらに太平洋戦争中の日本人の強制収容にまで筆をおよぼし、社会的な背景をも見落していない。この作品が波瀾に富んだ冒険小説といったものにとどまらず、感動的な美しい物語としてまとまっているのは、そのためである。とくに自然描写に精彩が感じられるのは、山岳小説を多く手がけた作者の特色が、そこに発揮されているからであろう。 ――尾崎秀樹(文芸評論家) 新田次郎(1912-1980) 1912(明治45)年、長野県上諏訪生れ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。1956(昭和31)年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、1974年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。1980年、心筋梗塞で急逝。没後、その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。実際の出来事を下敷きに、我欲・偏執等人間の本質を深く掘り下げたドラマチックな作風で時代を超えて読み継がれている。
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