見た目は変わらない。なのに、ある日突然、別人のようになってしまった人達と家族の日常を語る!現場19年、大阪の元気な言語聴覚士が、患者から集めた声とそこから見える生き様、そして社会に横たわる問題について考え、私たちに何ができるかを示した本。思い通りにならないと苦しんでいる人たちにぜひ読んで欲しい一冊。〈はじめに〉よりこの本を手に取ってくださいまして、ありがとうございます。言語聴覚士の西村紀子です。みなさんは、高次脳機能障害という言葉を聞いたことがありますか。おそらく、この本を手に取ってくださったということは、当事者、ご家族、支援者など、脳の損傷に関して、何らかのつながりや関心を持っている方なのだと思います。私は、今年2020年の時点で19年間、言語聴覚士という仕事をしてきました。主に脳に後遺症がある人のリハビリテーションに従事する仕事です。言語聴覚士の行うリハビリテーション、対象者は赤ちゃんから高齢者まで、対象とする障害は、聴覚障害、吃音、生まれつきの発達障害や脳性麻痺などいろいろな分野があります。私はその中でも、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といったいわゆる「脳卒中」、または交通事故や転倒などによる頭部外傷、インフルエンザなどの脳炎、パーキンソン病や若年性認知症、ALSなどの進行性疾患など、こうしたけがや病気が原因で、人生の途中で脳を損傷した人のリハビリテーションを担ってきました。さて、脳を損傷すると、どんな後遺症があると思いますか?まず思いつくのは、身体の麻痺でしょうか。これは見た目で分かりやすいですよね。後遺症のある本人も、身体の不自由さを実感しています。また、ちょっと分かりにくいですが、感覚障害といって、「痛い」とか「冷たい」、何かが触れているのが分かるなどのように、主に皮膚で感じるもの、脳に損傷を負うとこれが鈍くなります。例えば、私たちが鉛筆を持とうと思った時に「どれくらい指の幅を広げたらこの太さの鉛筆はつかめるだろうか」とか「どのくらいの力加減で持ち上げたら鉛筆は動かせるだろうか」とか、いちいちじっくり考えたりせず、まず指を添わせ、その感覚の情報をもって、細かい微調整をしながら持ち上げますよね。でもその感覚に障害があると、たとえ麻痺がなくても鉛筆を持つことでさえ一苦労なのです。見た目にはとてもぎこちなく、まるで麻痺があるように見えます。こういう感覚障害のある人は、例えばお風呂に入る時も要注意で、作業療法士さんや理学療法士さんなどは「感覚が良い方の足から入るように」と指導します。そうではなく、感覚の鈍っている方の足から入浴すると、お湯が熱すぎるのに気が付かず、大変なことになることもあるそうです。他にも、体のバランスを保つための平衡感覚や、手足がどっちの方向にどのように動いているかという運動覚、どこに手足があるかという位置覚に問題が生じる場合があります。続きは書籍にて。
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