剣術遣いなぞというものはな、世間には疎いものよ。 ことに男女の事となると、おもわぬ失敗(しくじり)をしてのける……。 非情の剣にその身を預ける者にも、淡い恋の記憶があった。国民的大ベストセラー、その第九巻! 「親の敵……」夜の闇につつまれた猿子橋のたもとで、秋山大治郎は凄まじい一刀をあびせられた。曲者はすぐに逃げ去り人違いだったことがわかるが、後日、当の人物を突き止めたところ、秋山父子と因縁浅からぬ男の醜い過去が浮かび上がってくる「待ち伏せ」。 小兵衛が初めて女の肌身を抱いた、その相手との四十年後の奇妙な機縁を物語る「或る日の小兵衛」など、シリーズ第9弾。 【テレビドラマ化常連作品】 加藤剛・山形勲(1973年4月7日 - 9月1日) 中村又五郎・加藤剛(1982年12月3日 - 1983年3月4日) 藤田まこと・渡部篤郎、山口馬木也(1998年10月14日‐2010年2月5日) 北大路欣也・斎藤工(2012年8月24日、2013年12月27日) ※佐々木三冬…音無美紀子、新井春美、大路恵美、寺島しのぶ 【目次】 待ち伏せ 小さな茄子二つ 或る日の小兵衛 秘密 討たれ庄三郎 冬木立 剣の命脈 解説:常盤新平 本文より 道を急ぎつつ、小兵衛はおもい直している。 (それにしても、この年齢をして何たることじゃ。女とちがって男のほうは、何歳(いくつ)になっても過去(むかし)にこだわるというが……まったくもって、ばかばかしい……) はじめて肌身を合わせた女が忘れられぬというのは、 (わしだけであろうか。男は、みんな、そうだというが……) いつの間にか小兵衛は、牛込の原町へさしかかっていた。 二人の侍は、まだ、小兵衛の尾行をやめようとはせぬ。(「或る日の小兵衛」) 本書「解説」より 作者は読者が食べてみたいと思うように食べものを書いている。「秘密」の一編では、秋山大治郎が目黒不動の参詣をすませたあと、門前の〔桐屋〕で名物の〔目黒飴〕を二包み買いもとめている。妻の三冬と義母おはるへの手みやげだ。 「待ち伏せ」では、鰻売りの又六の母親、おみねは、訪ねてきた大治郎にまず「冷酒を湯のみ茶碗へいれて出した」のち、夕餉(ゆうげ)の仕度にかかり、たちまちのうちに膳を出す。 「いまが旬の浅蜊(あさり)の剝身(むきみ)と葱(ねぎ)の五分切を、薄味の出汁(だし)もたっぷりと煮て、これを土鍋ごと持ち出して来たおみねは、汁もろともに炊きたての飯へかけて、大治郎へ出した」 ――常盤新平(作家) 池波正太郎(1923-1990) 東京・浅草生れ。下谷・西町小学校を卒業後、茅場町の株式仲買店に勤める。戦後、東京都の職員となり、下谷区役所等に勤務。長谷川伸の門下に入り、新国劇の脚本・演出を担当。1960(昭和35)年、「錯乱」で直木賞受賞。「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3大シリーズをはじめとする膨大な作品群が絶大な人気を博しているなか、急性白血病で永眠。
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