中井久夫と考える患者が読み解く、統合失調症の治療と回復に信頼と希望の灯をともすシリーズ最終4巻。 第1巻で病気の経過をたどり、第2巻で症状を読みほどき、第3巻で治療・治癒を探った深淵な考察のまなざしが、社会に身を置いて生きる意味へと向けられる。 患者の"社会復帰"のあり方として最も重要なことは、一般的な社会通念に縛られることなく、 自由な探索行動に基づくひそやかな居場所を見つけ、「世に棲む」ことであると中井は考える。 巧みな少数者として、さまざまな方向へらせんのようにひっそりと根を伸ばすような生き方を選択することで 患者は安定して社会にその座を占めることができるようになることを、豊富な臨床経験をもとに説く。 「働く」ことは患者にとっても周囲にとっても重い課題となりうるが、「治療という大仕事」を 既に患者はおこなっていることを尊重したうえで、消費活動も含めたコミュニケーション活動の一環として 生産活動を捉える視点を提示し、懐の深さを持って「世に棲む」患者を見守る姿勢が肝要であることを教える。 以上のような中井の思索を踏まえ、考える患者たち自らがその体験を語り、中井の設定した問いに考察を加えてゆく。その過程を通して、患者の抱える苦悩と、信頼と希望へ導く中井の治療思想体系が浮き彫りにされる。 歴史や文化の幅広い知識を背景に広く社会全体に目配りしたうえで、患者の持つ「心のうぶげ」を大事にし、 拙速を戒め、ゆるやかな自然回復へと促す「養生」を要諦とした中井の治療思想は、変革期を迎えつつある 現代の社会を導く道標ともなる。 重要論文「世に棲む患者」「働く患者」に加え、中井の思索と臨床の原点となった44の問い「統合失調症における主要な問題点」、養生という治療思想について語った講演録「精神科の病と養生」など、本書初掲載を収録。
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