こんな臨床があるなんて! まるで謎解きのようなおもしろさ! 片麻痺、半側空間無視、嚥下障害、失語、失行、失調、慢性疼痛… セラピストにとってヒント満載の、真剣にして濃密な臨床の記録。 セラピストにとって、患者さんを治したいという思いと治療ができるということとの間には、時に大きな壁が立ちふさがります。 しかし著者は、治療を諦めることはありません。試行錯誤しながら、その患者さんと共に臨床をつくりあげ、結果を出し、しかし反省点は次に生かすという形で日々臨床に臨みます。 本書はさまざまな障害の患者さんの「治療」を、一貫した治療理論に依拠して行ってきた一人のセラピストによる記録です。 著者の臨床は、脳科学を柱として認知心理学、教育学、言語学、現象学など人間を理解するための多くの学問の精華を選りすぐり障害の治療(リハビリテーション)という観点に立って構築された認知神経リハビリテーションの理論に拠っています。 そこに足場を置くことで、これまでどちらかといえばそれぞれの対応をされてきたさまざまな障害について共通の論理性をもって病態分析をし、一人一人の患者さんに対する、まさにオーダーメイドといえる治療を組み立てていきます。 リハビリテーションでは従来から詳しく行われてきた外部観察・動作分析はもちろん、主に患者さんとの対話(患者の記述)から本人の経験している世界(内部観察)の意味を推し量り理解しようとすることによって、一体なにが起きていて、なぜそうなるのかと不思議に思う理由を求め、関連知見の助けを借り、治療の糸口を見つけていくのです。 何を見て、何を聴き、どう病態を捉え、いかに治療を組み立てるか。試行錯誤の様子や転機をもたらす患者さんとのやりとり、治療仮説の検証まで、その思考(治療)過程が丁寧に記されています。 著者の思考過程、臨床の展開は謎解きのようなおもしろさがあり、患者さんの確かな変化(機能回復)がその治療の方向性の適切さを物語っています。本書の臨床風景は、これまでにない「高次脳機能障害の治療」であり、患者さんが望みうる現在であり明日でもあります。そしてこれは治療の記録であると同時に、一人一人の個性溢れる患者さんの物語でもあります。 「治療」を諦めない、共に歩むすべてのリハビリテーションセラピストに読んでいただきたい画期的な一冊です。 【おもな目次】 ◆豚足に憑依された腕〜「自分でも本当にとり憑いているのかと鏡で見たんです」 ◆右側の左側は左側〜半側空間無視の食べ残し ◆「空間」の左右と「におい」の左右〜半側空間無視と嗅覚無視 ◆「口の中で食塊が消えるんやわ」〜口腔内左半側空間無視の可能性と着衣障害そして妄想… ◆「僕の舌の先はないんですよ」〜8 年ぶりの妻とのクリスマスディナーまで ◆何をすべきかはわかる。どうすればいいのかがわからない〜失行症患者と電動髭剃り ◆「見ないと足が床についている感じがしないんやわ」〜非麻痺側で立てないわけ ◆見ることは言語で読み取ることではないか?〜失語症患者の世界の理解へ ◆失行症(?)で目が合わない…〜「意図的に見る」という行為の異常に関するリハビリテーションは可能か? ◆「健側は健側にあらず」を認知過程から考える〜片麻痺に高次脳機能の障害をみる必然性 ◆「8年間変わらないものがそう簡単に治りますか! 」〜片麻痺患者が再び泳げるその日まで ◆整形外科疾患の本質的問題の在り処〜患者の意識経験が教えてくれること ◆「触れられると思うだけで痛いです」〜触れない慢性頸部痛患者への介入 ◆「揺れる手は私の手じゃないみたい」〜失調症状の回復と、残存した不思議な症状 ◆リハビリテーションと羞恥心と自己意識について
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