「発見から70年経った今日、なぜ電気けいれん療法(ECT)が 患者や多くの医師からひどい汚名を着せられているのだろうか? ECTはある意味において精神医学のペニシリンである」 19世紀後半に至るまで、精神科治療は鎮静に限られていた。1900年以降に 精神薬理学の進歩が起こったのちも、症状の波に襲われているさなかの統合 失調症とメランコリーの患者にとっては、医学は何の救いにもならなかった。 家族は絶望し、カルテでは自殺のことが絶えず話題に上がった。 そんな失意の時代にあった精神科治療に光をもたらした「ショック療法」は、本当に 非人道的で危険なだけの治療法なのだろうか? 本書はECTのみならず、その前 史となるインスリン昏睡療法やメトラゾールけいれん療法、そして近年のニューロ モデュレーションへと至る、精神科における身体療法の系譜を描くものである。 精神科治療においてECTの有効性が再評価されつつある今日、身体療法のパイオニア となった医学者たちの足跡を追い、ショック療法がなぜこれほどまで忌避されてきたのか、 その悲運の歴史を紐解く。 当事者たちの証言と膨大な文献・資料を渉猟し、互いに翻弄しあう20世紀の社会と 精神医学界を描き切った、二人の医学史家による快著である。
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