7月20日現在、新型コロナウイルスによる感染症の死者は世界で60万人に達している。もっとも大きなパンデミックを引き起こしている米国では14万人が犠牲となり、8万人の死者を出したブラジルや、同じく2万6000人のインドでも、ウイルスの猛威は一向に収まる気配がない。 一方、7月に入って以降、「第2波」の予兆が危ぶまれている日本では、13人の犠牲者を出したダイヤモンド・プリンセス号を含めて死者数は総計1000人弱にとどまっている。 厚生労働省のホームページによると、日本における季節性インフルエンザの「直接死」は毎年3000人前後。死因が特定されなかった肺炎などをカウントに入れる「間接死」も含めると、毎年1万人と推定されている。 インフルエンザで毎年1万人もの人が死んでいるのに、なぜ、日本人は新型コロナウイルスに対して、これほどまでに恐怖心を抱くようになったのか? 4月9日、日本政府は“コロナ・パニック"に陥った世論に突き動かされた格好で「緊急事態宣言」を発出。安倍総理は根拠も覚束ない数字まで掲げて「最低7割、極力8割」人との接触を減らすよう国民に要請した。厚生労働省クラスター対策班のメンバーで「8割おじさん」の異名を持つ北海道大の西浦博教授は「このまま何も対策をとらなければ42万人が死亡する」との試算を発表。この、当初は公式見解ではなかった「個人的な意見」から導き出された数字に、社会は翻弄されることになる。 この間、テレビ朝日系列『羽鳥慎一モーニングショー』に出演するコメンテーターの玉川徹テレビ朝日報道局員や岡田晴恵白鴎大学教授は、時に、誤った情報も垂れ流すなどしてコロナの恐怖を煽るだけ煽った。 「今のニューヨークは2週間後の東京です。地獄になります」 4月12日放送の『モーニングショー』で岡田はこう言い切っている。しかし、周知のとおり東京はニューヨークにはならなかった。 今になって、緊急事態宣言に伴う休業要請には大して効果がなかったという意見が出始めた。海外でも、外出禁止と感染抑制に相関はない、都市のロックダウンは意味がなかったとする研究結果が多数出てきている。 結果、日本では4~6月期だけで13.3兆円のカネが吹き飛んでしまった。コロナで休業を余儀なくされた老舗とんかつ屋の店主が将来を悲観して焼身自殺したことも大きく報じられた。聖火ランナーに選ばれていた彼は、2020年の東京を走ることを楽しみにしていたという。今回のコロナ禍で『ベスト』が話題となったフランスの作家で哲学者のアルベール・カミュも、ソ連の作家・歴史家のアレクサンドル・ソルジェニーツィンも、「労働」のなかに単なる「苦役」を超える価値を見い出している。長年、客の笑顔に支えられ、額に汗して働いてきた店主の気持ちを思うといたたまれないが、今後、今以上に「コロナ倒産」が続出するのは火を見るよりも明らかだろう。 生命至上主義か? それとも、経世済民=世を経(おさ)め民を済(すく)うのか? 政治家、専門家、そして、メディアによって作り上げられた“インフォデミック"が、この国を分断に導いた。コロナによって、グローバリズムが終焉を迎えようとしている今、我われ日本人の価値観が改めて問われている……。 これまで国論を二分するような数々の問題作を発表してきた漫画家・小林よしのり氏が論考する、渾身の描き下ろし83ページを含む240ページの決定版。
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