“Illustrated Oxford Dictionary"をひも解くと,“ピットフォール"とは,予想外の罠・危機・展開のこととある。この巧妙に隠された思いもよらない危機という言葉には,見えないように穴に蓋をした“仕掛けワナ"という別の意味もあり,不用心な生き物(つまり医師?)はこの穴に落ちてしまう。医師であれば頭痛の評価・治療の難しさはわきまえているはずだ。頭痛の多くは良性であることはわかっていても,ときに深刻な原因を見逃してしまうことを恐れている。頭痛の治療はたいてい不首尾に終わり,やり甲斐のない仕事と思っている医師もいるだろう。 しかし頭痛について,こうした苦手意識をもってもらいたくはない。我々の経験からいうと,頭痛の診断はほとんどの場合難しくはない。しかも,頭痛治療薬は劇的に効くことも少なくないのだ。風変わりで面白い頭痛疾患もあるし,最新の頭痛治療薬も登場してきた。たとえ昔ながらの治療でも,適切な患者に正しく行えば,満足のいく結果も得られる。しかし,どんな医学領域でもそうだが,頭痛医学にも難しい側面はある。本書を執筆したのは,我々が頭痛診療の現場で経験してきた(また,他者の診療を見てきて得た)よくある,あるいはまれだが明らかな間違いやピットフォールを,読者に伝えたかったからである。 頭痛のみを扱っている書籍を含め,頭部の痛みに興味をもつ医療者に向けた症例ベースの神経内科学書は多く存在する。本書は2つの点でこれらの本とは異なる。第1に,本書で扱っている症例は,頭痛の診断・治療について定型的なものではなく,手強い例に絞っている。第2に,本書は国際頭痛分類(ICHD)の,1988年から数えて3回目の改訂中に書かれたものである。結果的に,本書の全情報は最新版のICHD-3βに基づいた内容となっている。 ICHD-3βは,国際頭痛学会(International Headache Society)のウェブサイトから無料で利用できる。本書を読みながら,このICHD-3βを印刷して参照してもよいだろう。ただし,我々は正式な診断基準を文字通り再揭したわけではなく,最新の診断基準に示された各頭痛疾患の臨床的な特徴をまとめている。 我々,著者3人が頭痛を専門に診療してきた年月は,合わせると半世紀ほどになる。Paul B. RizzoliとElizabeth W. Loderはベテランで,臨床経験が長い。一方,Rebecca C. Burchは比較的若手で,主に,研修医や頭痛の非専門家たちが陥りがちなピットフォールや間違えに関して,我々に多くの助言をくれた。こうした2つの視点から本書が執筆されたことで,家庭医から頭痛専門家まで,頭痛患者を診るすべての医師にとって役立つものになっていると期待している。結局のところ,我々はどんなにたくさんの経験をしても,他の人が経験した誤診やミスから学ぶところが大きいからだ。 Elizabeth W. Loder Rebecca C. Burch Paul B. Rizzoli
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