「小児救命救急・ICUピックアップ」シリーズ,第4弾は“感染症"である。責任編集を仰せつかった者としては感慨深く,この機会を与えて頂いた編集委員会に改めて感謝申しあげたい。 まだPICU(小児集中治療室)が日本の医療界に認知されていない30数年前, PICUにおける感染症診療は黒歴史の時代であった。十分な知識や体系的な教科書,指導者も乏しかった。そもそも診療全てが経験や言い伝えと,看護師詰め所に置かれたハードカバーのRogers' Textbookだけが頼りだった。もちろん読み切れないし追いつけない。呼吸と循環と,あと栄養!?…,感染症のカの議論もなかった。手術が終わったら,クラフォ○○を1週間投与。熱が出ればCRPを測って陰性化するまでチエナ○1日2回と,バソコと,なんかカビに効く薬。血液培養って何… br> 時代は変わった。感染症診療の基本が普及し,新たな診断法が生まれ,抗菌薬使用の適正化が進んだ。重症感染症患者が救命できるようになった。しかしまだまだ,改善の余地がある。変わらない基本的診療作法,新しい知見や技術,そして何よりも,クリニカルエビデンスを重視した診療行動について,今一度まとめ直し,臨床医がすぐにひもとける教科書がほしい。それがあればPICUの感染症診療はもっと良くなるはずだ。そんな願いからこの企画を始めた。 責任編集者の能力のみではまとめきれないところを, 4名の編集協力者にお世話になった。笠井正志・伊藤雄介・伊藤健太・日馬由貴(敬称略),いずれも現場をよく知り,日々感染症と格闘し続けている怪しげな俊英である。各項目の筆者も彼らのアドバイスのもと,新進気鋭のメンバーに依頼した。痒いところに手の届く,とても良い教科書ができあがったと思う。 依って責任編者の仕事は、この駄文を書くばかりとなった。良い傾向である。この流れが引き継がれ,今後も版を重ねることを期待している。 2020年10月 キンモクセイが薫り,どんぐりが降る洛北の公園で 志馬 史朗 広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学
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